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ナゴヤの歌を道づれに、 いのちの循環の旅へ。~やっとかめ文化祭 ナゴヤ面影座第八講~

TEXT : 神野 裕美

2023.04.11 Tue

世界を大混乱に陥れた疫病により、多くの文化芸術活動が停滞した。しかし、ナゴヤ面影座にいたっては、今回もオンライン配信となったものの映像という手段を得て、その可能性をさらに大きく広げたように思う。いつでもいずこにも座を建立できる、自由の翼を手に入れたからだ。

第八講のテーマは、「うたかたの国ナゴヤ ~歌でつなぐ名古屋の面影~」。歌を道づれに、語り・歌い・科学を巡る、オムニバス映画である。三つの巻にはそこかしこに芸どころ名古屋の多面的な魅力が散りばめられ、観客の知的好奇心はおおいに刺激を受けるだろう。それは、めくるめく名古屋文化の冒険を楽しむ、新たな紀行映画とも言える。

<巻ノ一>

白鳥を探して熱田の杜へ

巻ノ一の物語は、とある探偵事務所から始まる。名古屋は、あの江戸川乱歩が少年期を過ごし、その恩人である探偵小説家・小酒井不木が拠点とした街。こんな探偵事務所が、今もどこかにひそんでいてもおかしくはない。

二人の探偵に依頼された内容は、白い鳥を探せというもの。メーテルリンクの『青い鳥』ならぬ、白い鳥を探して二人は旅に出る。白鳥と言えば、熱田神宮の付近に白鳥と呼ばれる地がある。その名は日本武尊が亡くなるときに白鳥に姿を変えて、白鳥古墳(白鳥御陵)に降り立ったという伝説に由来し、本居宣長も歌に残している。

二人はあてどなく鳥を探して、貞奴の邸宅「二葉館」へ。やがて、日本武尊ゆかりの草薙の剣を祀る熱田神宮にたどりつく。熱田神宮は名古屋の芸能のルーツとも言える場所で、古代より舞や歌が神事とともに奉納されてきた。中でもオホホ神事の別名を持つ「酔笑人神事(えようどしんじ)」は、ひときわ異彩を放っている。神聖なる杜にワーッハッハハと笑い声が響く様を、映画の中でぜひご覧いただきたい。

やがて白鳥を探す二人は、文字の語り部という賢者と出会う。賢者は「文」は死者を表す文字であると語り、次々に文字のルーツをひもといていく。産、學、×から+へ。死と再生。古代の人々が文字に込めた意味を知ると、何気なく使っていた字もいつもと違って見えてくるから不思議だ。そして二人は、風の神でもある聖なる鳥を追って、名古屋の風流の世界へと旅立つ。

 

<巻ノ二>

歌どころ名古屋に聞き惚れる

尾張地区一帯は、風流な「歌の場」であった。そんなうたかたの歴史を改めて思い起こさせるのが、歌と三味線の響きに魅了される巻ノ二だ。白鳥を追う探偵の前に現れたのは、江戸時代の鳥追いを彷彿させる二人組。その艶やかな歌声と音色に耳を傾ければ、名古屋の歌の歴史を振り返ることができる。

「都都逸」というと江戸っ子の文化のように思う人もいるだろうが、実は立派な名古屋生まれ。熱田の宮宿の茶屋で歌われた神戸節から一節をとって、「どどいつ」と呼ばれるようになった。明治時代には、「きんらい節」という俗曲が東京の花柳界で流行り、全国に広がっていく。曲のおしまいにある「そおじゃおまへんか」というユニークな囃子言葉が人気の理由だったが、名古屋では独自に名古屋弁を取り入れ、「名古屋名物」という歌が生まれた。「そうきゃも、そうきゃも」「おそぎゃあぜえも」と、心地よく名古屋弁が紡がれる様は、まるでラップのようだ。

♪オッチョコチョイのチョイ~♪オッチョコチョイのチョイ~…。歌に聞き惚れ、三味線に合わせてずっと鼻歌をくちずさんでいたい気分だが、本来の白鳥の捜索はどうなったのだ?はたと観客も気づいたところで巻ノ三へ。そこにはこれまでとは全く趣きの異なる世界が広がっていた。

 

<巻ノ三>

死と生の循環をめぐって

巻ノ三では、生命科学の世界を面影座流に描くと、こうなるのか!という驚きが待っている。示唆に富み、新たな気づきを得る観客も多いのではないだろうか。

白鳥の居場所を探す探偵二人が迷いこんだのは、絵本の中のような不思議な森。そこで出会ったコペル博士は、二人に「居場所」とは何かと問いかける。そして、木と葉の関係のように私たちのからだ自体が細胞たちのいのちの居場所になっているということ。細胞の死と生が起きているからこそ、いのちの居場所である私たちのからだは生きていくことができるということ。そんな「二重生命」の仕組みを解き明かしていく。

細胞が死によっていのちを居場所に与贈することで、居場所のいのちに変わるという「与贈循環」、人のいのちと地球のいのちの関係、死と生のつながり、超新星爆発、仏教の縁、生命という活き(はたらき)などなど、二人をさらなる高みへと導いていくコペル博士。さらに愛知の歌人・永井陽子の歌を取り上げ、円環的な時間の流れ、時間と空間の関係性を説いていくのだ。

生命科学の深淵へと二人を誘ったコペル博士は、最後に白鳥の居場所を明かす。果たして二人は白鳥を見つけることができるのだろうか。

 

 

名古屋の文化の循環を担う

チルチル・ミチルの童話の結末を覚えている方もいるだろう。兄妹が探したしあわせの青い鳥は、自分の家にいた。本当のしあわせを探し求めた長い旅路のゴールは、スタート地点にあったというわけだ。

人生は循環そのもの。地域の文化も循環を繰り返している。生まれた文化は受け継がれ変化し新たな文化として生まれ変わる。その循環の担い手となるのは、私たち自身である。

史上最多のゲストが参加し、ナゴヤ面影座の総力を結集して誕生した面影的映画は、名古屋に息づく文化や芸能の豊潤さを再発見させてくれる。ぜひ映画をご覧になって、あなたの居場所に目を凝らしていただきたい。そうすれば、きっと、あなたの白鳥が見つかるはずだから。

 

やっとかめ文化祭YouTubeチャンネル

ナゴヤ面影座第八講

「うたかたの国ナゴヤ ~歌でつなぐ名古屋の面影~」

 

WRITER PROFILE

神野 裕美

1998年よりフリーのコピーライターとして活動。2010年、クリエイティブディレクターとともに株式会社SOZOS(ソーゾーヅ)設立。新聞、ポスター、パンフレット、Webといった各種コミュニケーションツールの企画立案・制作、ロゴ制作、ネーミングなどを手掛けている。最近はまちづくり支援の仕事も多く、なごやのまちを盛り上げるべく、多角的な視点からなごやの魅力を再発掘中。インフォグラフィックでなごやめしの紹介も。
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