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本当においしいものを届ける。名古屋の”趣味”を支える川口屋の和菓子

TEXT : せせ なおこ

2023.04.25 Tue

名古屋といえばきしめん、味噌カツ、モーニング!おいしそうな名物がたくさんあるイメージはあるものの、まさかこんなに和菓子の文化があるなんて!名古屋にきて1番驚いた文化だ。

少し歩くだけでいくつもの和菓子屋さんに遭遇するほど和菓子が根付いている街、名古屋。手頃な価格なのに、和菓子のレベルはとっても高く、節句などの行事ではどの和菓子屋にも行列ができるほど名古屋では和菓子が生活に馴染んでいる。

もしかしたら名古屋って和菓子屋さんが多いかも?そうだとしたら、どうしてだろう?、そんな疑問を持ち始めた時期に出会ったお店が名古屋を代表するお店の一つである、川口屋だ。

これまで全国のたくさんの和菓子を食べてきたが、特にお気に入りのお店。和菓子がとてもおいしいのはもちろん、他にはない斬新な和菓子に出会うことができること、そして、お店の方達の和菓子への愛が伝わってくるのが何よりの理由である。

初めてお店に伺った時のこと。訪れたのは閉店間際の夕方で、残っていたお菓子は2種類のみ。しかし、売り切れてしまったお菓子まで「今の季節はこんなお菓子もあるんですよ」と、丁寧に説明してくださり、このお店は和菓子のことが大好きで、とても大切に向き合ってらっしゃるんだな、と本当に感動した。

お店を出た後、こんなふうにお店の方が和菓子を好きだから、食べる人たちにも伝わって、この街には和菓子好きが多いのではないか?そんな風に感じた。今回はそんなきっかけを作ってくれた川口屋の渡辺和嘉恵(わかえ)さんにお話を伺った。

300年の時を超えて

もともとは飴屋さんとして始まった川口屋。創業したのはなんと約300年以上も前のこと。戦前は街道沿いの清水町で伊勢神宮や熱田神宮のお土産用の飴を販売していたそう。当時の本業は地主。副業として飴屋さんを営んでいた。その当時売っていたのは茅の実に飴を絡めた茅飴という飴だったと伝わる。

「今のお店は戦後、父がこの場所で始めました。せっかくお菓子屋さんをやるなら川口屋の名前も捨てて1からやるつもりでいたけど、父のお母さんがこれだけ続いた名前だから残して欲しい。ずっと続いてきた川口屋の名前を終わらせるわけにはいかない、と川口屋の名前を引き継いだそうです。」

そんなわけで、飴屋だった川口屋は戦後、今のような上生菓子づくりが始まる。

受け継がれる”趣味”の和菓子

川口屋さんのお菓子を手に取ると、まず目に入ってくるのが包み紙に書いてある”趣味の和菓子”の文字。これは一体どういうことなのだろう。

「父は本当にアイデアマン。とても勉強熱心な方でした。修行をしたことがない代わりに、京都のお菓子屋さんのお菓子をひたすら食べ歩き、今に繋がるお菓子が生まれていきました。そんな父が言っていたのが”趣味の和菓子”という言葉です。『あなたの趣味はなに?って聞かれた時に儲けのこと考えないでしょ?お金のことを度外視して、全身全霊をかけられるもの、それが趣味であり、そんな和菓子を作るんだ』


お正月に食べる花びら餅の製造の様子

値段で決めるのではなく、ただただおいしいものを作るために材料選びも惜しまない人でした。そういう想いを聞いてきたから、そんな父の想いを大事にしたい。だから包装紙にも”趣味の和菓子”を入れ続けています。」

名古屋では徳川宗春の推奨した芸事の文化が今もなお根強く残る。踊り、茶道、華道。抹茶の産地である西尾が近いこともあり、茶道はたくさんの流派が生まれ、それとともに和菓子の文化も発展してきたと考えられている。川口屋の和菓子は他のお店とは少し違う独創的なお菓子が多く、いつも驚かされることばかり。

例えば、きんとんというこのお菓子。一般的にきんとんの中(芯)はあんこでできているが、川口屋では道明寺が使われている。

「これも父のアイデアで生まれたものです。外側があんこで中もあんこなのは納得がいかない!と、中を道明寺に変えたんです。餅だと伸びちゃってお茶席ではきれない。食べやすくて、かつ食べてもおいしいものを、と食べる人のことを考えて自分なりにこういうお菓子がいい、と生み出していきました。」

人気の椿餅も普通は道明寺が使われるが、川口屋では羽二重餅に寒天がコーティングされている。椿餅の季節を待っているお客さんも多い、人気のお菓子だ。

さらに、四季を表現するのは和菓子の特徴でもあるが、川口屋では2週間ごとに次々と和菓子が変わる。全てのお菓子を制覇するには何年かかるんだろう?と思ってしまうほど。毎回違うお菓子が並んでいて、何度行ってもいつも新しいお菓子と出会うことができる。


秋の生菓子の詰め合わせ

「この時期にこのお菓子を食べるのはこういう理由があるんだよ、そういうのを伝えていけたらいいなと思っています。」

ここに来てくれることが奇跡

川口屋では、コロナを経てTwitterやInstagramのSNSでの発信も始まった。苦労したこともあったそうだが、きてくれるお客様が和菓子を選ぶのに迷わないように、と和菓子の細かい説明付きで毎日更新されている。

川口屋Instagram:https://www.instagram.com/kawaguchiya_758/

「生き残るっていうのはいかに進化していくか、というのをコロナ禍を通してすごく感じました。今の時期だから、少しずつでも変えたほうがいいんじゃないのかな、ってやってみてよかったですね。」

なかなかお店に行けなくても、“もうこんな季節か”、“これはどんなお菓子だろう?”そんな風にみるだけで癒される素敵なアカウントである。

「最近、ここにきてくれるだけで奇跡だと思うんです。コロナはもちろんのこと、体が悪くなって来れなくなったり、生活が変わって来れなくなったり、お店にきていただくことって本当に奇跡だと感じます。せっかくきていただけたんだから、売り切れだと申し訳なくて。できる限りたくさんの中から選んでほしいですね。」

たくさんではなく、一つ食べた後に、もう一つ食べたいな、そう思えるようなお菓子を作っていけたら、と和嘉恵さん。和菓子はなんだか敷居が高い、そう思っているあなたも大丈夫。ちょっぴり勇気のいる扉も、エイッと入ると色とりどりのお菓子とやさしい店員さんが出迎えてくれる。きっと今日もまた一人、和菓子好きが増えていくんだろうなと感じた。

WRITER PROFILE

せせ なおこ

和菓子コーディネーター/ライター。和菓子を好きになったきっかけはおばあちゃんとつくったおはぎ。日本の文化や歴史がつまっている和菓子に魅力を感じ、そんな和菓子を発信すべく和菓子メディア「せせ日和」を運営。商品開発や和菓子専用のコーヒーのプロデュースを手掛ける。