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暗闇が “せつない”から “いとしい”に変わった夜

TEXT : 近藤マリコ

2025.09.26 Fri

南海トラフ地震の切迫性や昨今のゲリラ豪雨など、天変地異の心配事はつきない。だからこそ防災の意識が必要であることはわかっている。非常用持ち出し袋は玄関先に置いてあるが、きっと、それだけではまったく足りていない。なのに、その先の一歩がなかなか踏み出せずにいた。チャンスなんていくらでもあるのに、それよりも自分が興味のある事柄を優先させて日々を過ごしていた。そんな防災初心者であるわたしが、まさにターゲットではないかと思われる『旅するなごや学』の講座が、昨年のやっとかめ文化祭DOORSにて開催された。これはその日の夜、わたしに起こった変化の話である。

 


 

2024年のやっとかめ文化祭DOORS『旅するなごや学』では、『防災で読み解くなごやのデザイン』と題して、防災をテーマに3人の登壇者がトークセッションを繰り広げた。名古屋市を防災データとまちのデザインという視点で眺めてみるお話、被災経験を持つ防災プロフェッショナルによる防災実践のお話、未来を担う中学生が防災の視点で名古屋をどう考えているか、など、世代も立場も違う人がそれぞれに語り合いながら、等身大の防災の捉え方を探っていった。そしてこの時、最後に導かれたキーワードは、『フェイズフリー』であった。
フェイズフリーとは、平常時と災害時の区別なく、普段の暮らしで愛用しているモノや実践しているコトを被災時にも同じように使いこなせることの価値を謳ったものだ。いつもの日常を豊かに過ごすためのモノやコトが、被災時のQOLを向上することにつながるはず。だからこそ自分の“好き”をしっかり意識して、“好き”を追求することが防災につながっていく、と拡大解釈していいようである。

防災意識を高める、といわれると難しそうでつい敬遠してしまうが、“好き”を追求することなら、わたしにもできるのではないだろうか。

その夜、自分の好きなことってなんだろう?と考えながら、仄暗いリビングの間接照明の下でノートに“好き”を書き連ねていた。猫の目やに取り、栗のお菓子、葛のお菓子、カバーを剥いた文庫本、明日飲む予定の白ワイン、グリーン・グリーン、青い水性ボールペン、、、と書いていくうちに、わたしが今いる部屋のことを思いつき、極限まで暗いリビング、と記したところでアイデアが浮かんだ。

そうだ!暗闇だ!

我が家の夜は、間接照明だけで過ごしている。目の皮膜が薄いからなのか、明るい照明はまぶしいので苦手で、シミもシワも白日のもとにさらしてしまう太陽も、青白く見える蛍光灯も大嫌い。本を読む時は手元だけ明るければいいし、食事やお酒をいただく時も間接照明だけで十分楽しめる。
それなら、暗闇を防災の好きポイントにすればいいのだ!と思いつき、早速その夜から実践することにした。

目を瞑って着替えることをはじめてみたのである。
もし電気が止まってしまい、真っ暗闇に包まれたとしても、暗闇で着替えができるはずだから。
目を瞑ったままパジャマを手に取って着替えてみた。それがなかなか楽しいのである。指先の感覚だけで上衣の前後ろやボタンの位置を確かめて着替えることができると、子どもに戻ったような気分になってなんともいえない満足感だった。
実は子どもの頃に同じように目を瞑って着替えていたことがある。わたしの祖母は晩年に薬害で失明をしてしまい、わたしは目が見える祖母を知らずに育った。まだ小学校にもあがっていない年齢だったと思うが、目が見えない祖母の感覚を知りたくて、目を瞑ったまま家の中を歩いたり着替えたりして、母からは危ないからとこっぴどく怒られたことがあった。何十年も経っていい大人になってから、まったく同じことをするとは。祖母のことを思い出してせつなくなってしまった。

被災した時には、この暗闇が恨めしく感じるのだろうか。実際に被災された方々は、夜をどれだけ不安に感じていることか。目が見えない祖母は日々を不安に過ごしていたのだろうか。そんなことを考えながら、照度が極端に暗い我が家の空間を、いつもに増して“せつなく“感じながら、ひとりの静かな時間を過ごした。平常時である今のうちに、自ら目を瞑ることで得られる暗闇を、もっと愛でていくべきなのかもしれない。
目を瞑って部屋の中を右往左往しているうちに、暗闇に対する”せつなさ“は、知らず知らずのうちに”いとしさ“に変わっていった。

そして後日。服や下着を仕分けして、暗闇の手探りで何がどこにあるかがわかるように、整理しなおした。きれいに整頓された下着やTシャツが並ぶ風景のなんと清々しいことか。
防災のために住まいを整えることは、普段の暮らしを心地よく過ごすことにつながることを知った。

さて、こうして“好き”が防災につながる!を実践したおかげで、自分の生活の中の好きポイントを改めてリストアップしているわけだが、好きなものといえば、やはり毎日の“食”にも注目したいと思う。
そんなわけで、2025年のやっとかめ文化祭DOORSでは、「食」に焦点を当てて、防災を考えてみたい。実際に防災食を作って試食しながら、いざという時に自分の“好き”なものを食べることを想像しようではありませんか。旨味の掛け合わせといわれる名古屋めしは、果たして防災食になるのか?名古屋めしはローリングストックに向いているか?などなど検証しながら、前菜・メイン・デザートの3品を作り、試食して、みんなで考えてみたいと思う。

 

2025年11月2日(日)10:00〜12:00
名古屋めしでつくる防災食
場所 東海中学校 調理室
参加費 2,500円(実食・名古屋めしのお土産付き)
講師 山田実加(名古屋文化短期大学 教授)、島田尚幸(東海中学校教諭・防災士)

 

2025年11月2日(土)15:00〜17:00
防災で読み解く、なごやデザインまち歩き〜みなとまち編〜
集合 地下鉄名港線「名古屋港」改札口前
参加費 1,000円
ガイド 島田尚幸(東海中学校教諭・防災士)

WRITER PROFILE

近藤 マリコ

やっとかめ文化祭ディレクター、コピーライター、プランナー、コラムニスト。
得意分野は、日本の伝統工芸・着物・歌舞伎や日舞などの伝統芸能、工芸・建築・食など職人の世界観、現代アートや芸術全般、食事やワインなど食文化、スローライフなど生活文化やライフスタイル全般、フランスを中心としたヨーロッパの生活文化、日仏文化比較、西ヨーロッパ紀行など。飲食店プロデュース、食に関する商品やイベントのプロデュース、和洋の文化をコラボさせる企画なども手掛ける。