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宇宙物理学者、佐治晴夫博士の宇宙一受けたい講義!最終回

TEXT : 小島 伸吾

2018.04.28 Sat

会場はすっかり佐治ワールド。参加者それぞれのなかでビッグバンが起こり始めている。いよいよ後半に突入!

9、逆遠近法という世界の見方

逆遠近法という考え方があります。どうして光の速さは毎秒30万キロなの?どうして宇宙の広さはこうなの?と考えるときに、極端にいえば、それはそれを考えるあなたがいるからでしょう、ということを論理で説明できるのです。これが私のケンブリッジでの講義だったのです。ケンブリッジの人たちは、すごく熱心にそれを聞いてくださいました。

宇宙ってどうなっているんだろう、と考えるあなたがいる。では、あなたってなんでできているの?あなたの脳が考えているの?ではあなたの脳は何でできているの?脳の主成分は炭素でしょ。あなたが存在するには炭素が必要でしょ。炭素はどこからきたの?炭素は星のなかで合成されたものですね。それがどうしてあなたをつくったの?星が最後を迎えるのに関係してますね。それは超新星爆発ですね。超新星爆発の条件は何なの?星がゆっくり燃えていたら、炭素をつくる前に星は寿命がつきてしまう。星が一気に燃えると炭素をつくる前に爆発してしまう。あなたがいることによって星の寿命をあなたが決めるわけです。それを決めるための物理乗数ですべて説明できる。これが逆遠近法なのです。

これがスティーブン・ホーキングが私を褒めてくれた唯一のことです。これを極端にいってしまうと、どうして宇宙はこういうかたちをしているの?それはあなたがいるからですよ。といってしまうこともできるのです。ちょっと危険な考え方なのですが。これをAnthropic principleといいます。この「人間原理」が私の言葉でいう逆遠近法になります。

この逆遠近法の考え方とチベット仏教の考え方が非常に近いのです。だからダライ・ラマ法王は私をおもしろがってくださるのでしょうね。これをまたヴァチカンでパウロ2世とお話すると、今度は、カトリックでは人間の手の及ばない神であるわけです。旧約聖書では最初は天も地もなかったんですね。そこで神は天と地をおつくりになった。そこに神の霊が水の中に漂っていた。そこで神は〝光あれ″といわれた。すると光が現れて昼と夜がわかれた。そして明日がうまれた。これが第一日目であるという訳です。

これが実は間違っているわけです。ヘブライ語で読むとまったく違う。だって何もないのだから第一も第二もないはずです。間違った解釈で聖書を語るのは罪悪だと感じたので、私は神父になるのをやめました。ただプライベートで申し込んでいただければ教会の結婚式で神父くらいやりますけど(笑)。

パウロ2世にお会いしたとき、金子みすゞの詩をイタリア語でパウロ2世に紹介したんですね。「蜂はお花の中にいる。お花はお庭の中にある。お庭は土塀の中にある。土塀は町の中にある。町は日本の中にある。日本は世界の中にある。世界は神様の中にある。そうしてそうして神様は、小さな蜂の中にある」という詩です。

一匹の蜂の中にすべてが凝縮されて神様さえ感じてしまう構造を「フラクタル構造」といいますね。ラテン語のフラクティスという言葉からきていまして、これは「分割する」という意味ですね。一方、小さなところに神が宿っている、何もないところに神が宿っている、ということにヴァチカンは困るともおもったのですね。

その際、私は何もない、先ほどの認識をこえたシーニャに神の意志がはたらいていてもかまいせん、とお話して法王との信頼関係が結べたのです。それでパウロ2世に何百年も前につくられたパイプオルガンの音を聴きたいとお願いしたところ、いいでしょうといわれて、ヴァチカンで唯一人パイプオルガンを弾いた日本人になったわけです。そのときに弾いたのがアヴェマリアです。これくらいしか暗譜で弾けなかったので(笑)。

10、これからがこれまでをきめる

光というものがもつ波の性質、粒の性質、これら両方の性質を統括するにはどうすればいいかというと、波動関数が登場するわけです。その波動関数という方程式をかくことによって、どうして解けるかということを誰も知らないわけです。そこがおもしろいとおもいませんか。

シュレディンガー方程式はこう描きますが、美しいとおもいません?あまりに美しいので、私のゼミでこの方程式をTシャツにしました(笑)。これは自由に動いている電子をあらわしています。プサイは波動関数で目に見えない数学的な波なんです。虚数を含んでいる波なんです。宇宙は何もないところから生まれた、ということをあらわすのは簡単ですよ。△Ψ=0。これでいいんです。きれいだとおもいません?(笑)。なんかドキドキしませんか?

この美しさは、すこし数学のお勉強されるとわかりますけれども。もしもお望みでしたら数学のABCをやりましょうか。この波動関数というのは、じつは一番最初にお話したように、実在しないが頭の中にある直線が三本重なると三角形ができて、その内角の和は全世界どこにいっても180度であるというようなプサイです。それで、このプサイの2乗と描きますと、これが何をあらわすかというと、いろいろなところに電子があるという確率をあらわす確率波なんです。

ということは、たとえば、この会場の外に誰かがおりまして、この講義が終わったときに、この会場から男性が出てくるか女性が出てくるかを考えるとします。この会場に20人いるとして、15人が男性で5人が女性だった場合、男性が女性の3倍いるわけですね。だから、全体で四分の三が男性で、四分の一が女性なんですね。そうするとこの会場の外にいる人にとっては、みなさんのそれぞれが四分の三が男性で、四分の一が女性という不可思議な存在の人が20人いるということになります。よろしいですか。

それで会場の外にいる人が、中から出てくる不可思議な存在を見とめた瞬間に、仮にそれが男性だとしたら突如、四分の一の女性が消えて四分の四の男性に波動が収縮するのです。つまり、すべての状態が重ね合わせでできているのです。いろんな可能性の中に、世界線ワールドラインの中にみなさんはいらっしゃって、次にどういう行動をとるかによって世界は分岐していくのです。これが「他世界解釈」です。

つまり、われわれにとっての過去というのはないのですね。われわれの脳の中に残っているだけです。じゃあ、未来というのは何かというと、まだ来ていないので、やはりないのです。そしたら過去もなければ未来もないのでしたら現在しかない。では、現在とは何ですか。

現在といって時間を切ったときに、その断面は過去に含まれるのか、未来に含まれるのか。ここから生まれる「切断」という、とてもおもしろい数学理論があります。これはいつ明日になりますか?という話にもなります。今日の23時59分59秒。59・99999…どこまでいったら24時になるんですか。これは東京大学の一年生に私が出した問題です。自分を天才だとおもっている生意気な学生たちに、この解釈ができなければ税金の無駄使いだから全員退学しなさい、といって出題しました(笑)。

つまり、昨日と今日の境はどこにありますか?あなたにとって明日とは何ですか?これを整数論の立場から述べよ。たとえば0、1、2、3、4と数直線があって、この2の箇所で切った場合、この断面の2は切り口のどちらの面に属するのか。両面に属することは数学では許されません。さらにここから人生を論ぜよ、とこれは京都大学の哲学部の学生たちに出題したんです(笑)。

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WRITER PROFILE

小島 伸吾

版画、タブローを中心に、個展、グループ展多数開催。
2002年、イシス編集学校に入門。2003年よりイシス編集学校におけるコーチにあたる師範代を務める。2010年、校長である松岡正剛直伝プログラムである世界読書奥義伝「離」を修める。2003年より岐阜県主催の織部賞に関わる。2006年、エディットクラブ実験店として「ヴァンキコーヒーロースター」開業。2013年、2014年「番器講」企画。2014年、ペーパーオペラ《月と珈琲の物語》製作、公演。2015年、名古屋市の「やっとかめ文化祭」《尾張柳生新陰流と場の思想》企画。2016年、名古屋市の面影座旗揚げ。第一講《円かなる旅人〜円空の来し方。行き方〜》企画。2017年、知多半島春の国際音楽祭参加、ロールムービー《幾千の月》製作、公演。など編集とアートをつなげる活動は多岐にわたる。