PAGE TOP

facebook twitter
美しく儚い和菓子は、職人の手と、使いこまれた道具から。

TEXT : 近藤マリコ

2017.11.05

先日名古屋で開催されたエルメスの手仕事を紹介する展覧会で、展示されていたパネルに印象的な言葉を見つけた。「ものづくりの原点は時間、素材、道具、才能、感性、知性、そして熟練した手である」という記述である。ハイブランドとしての価値を高らかに謳うのではなく、職人たちの手仕事に焦点を当てた素晴らしい内容で、訪れた人々は、時代を超えて長く愛される理由を感じ取ったことと思う。

時間、素材、道具、才能、感性、知性、そして熟練した手。これは、すべてのものづくりと職人に繋がるもの。東京と京都に挟まれて独自の展開を見せる名古屋の和菓子にも、この言葉を捧げたいと思う。やっとかめ文化祭2017の和菓子企画「名古屋てくてく和菓子めぐり」の取材で、甲斐みのりさんと一緒に21店舗の和菓子店を巡った時に、多くの道具や素材、そして熟練した手と出逢ってきたからだ。ここでは、そのほんの一部を紹介したいと思う。

尾張藩の御菓子御用をつとめていたことで知られる両口屋是清。この菓子箱は、尾張藩、つまり名古屋城にお菓子を納める時に実際に使用していたものである。本来なら博物館などでショーケースに入れられて展示されていてもおかしくはない品なのに、こんな貴重な菓子箱が栄店の店頭にさりげなく置いてあるので、聞いてびっくり笑。

両口屋是清の創業者・猿屋三郎右衛門は、武家屋敷や商家を相手に饅頭を作り始め、いつか藩の御用を賜ることを志したのだそう。残念ながら存命中には叶わなかったが、三郎右衛門が亡くなった翌年に尾張藩の御用菓子をつとめることになる。さらにその15年後、二代目の三郎兵衛が、二代目藩主・徳川光友より「御菓子所 両口屋是清」の表看板をいただき、それが今もロゴマークとして使われているのだとか。名古屋の和菓子の奥深さは、江戸時代創業の老舗が多く、歴史が長いということも一つの特徴だと思うのだけど、両口屋是清はその最たる代表格である。

 

干菓子で有名な万年堂。その看板商品でもある「おちょぼ」は、名古屋の人なら一度は目にしたことのある小さな可愛らしい干菓子である。女性の小さなおちょぼ口でひと口で食べている様をイメージした名前だという。干菓子は材料を練ってそれを型に詰めて、木型から干菓子をぱかっと出せば完成・・・だと思っていたのだが、そこから約1週間かけて乾燥させると聞いて驚いた。水分を適度に飛ばして崩れないようにしてから和紙で包んでやっと完成なのだと。特別にお願いして、乾燥機を見せてもらった。下に電熱があり、上段におちょぼがずらりと並んでいる。この乾燥機はおよそ50年使い込んでいるというから再び驚いた。シンプルな構造だからか、長年壊れることなく立派な現役選手である。中に並べられたおちょぼが整列しているみたいに思えて、愛おしくなってきた。

おちょぼの特徴は、真上の紅い点。そしてこの点は、からす口と呼ばれるペン先を用いて一つひとつ手作業で描かれている。万年堂に入社した人は、必ずこの点が描けるようになるまで修練することが義務づけられており、すべての写真がいつでもからす口を手にして紅い小さな点を正確に描くことができるのだそうだ。職人集団らしいエピソードに思わず萌えた。

1 2

近藤マリコ

WRITER PROFILE

近藤 マリコ

コピーライター、プランナー、コラムニスト。
得意分野は、日本の伝統工芸・着物・歌舞伎や日舞などの伝統芸能、工芸・建築・食など職人の世界観、現代アートや芸術全般、食事やワインなど食文化、スローライフなど生活文化やライフスタイル全般、フランスを中心としたヨーロッパの生活文化、日仏文化比較、西ヨーロッパ紀行など。飲食店プロデュース、食に関する商品やイベントのプロデュース、和洋の文化をコラボさせる企画なども手掛ける。